障害のある方が相続人となった場合に預貯金の解約で成年後見人が必要!?解決事例をもとに解説

障害のある方や、認知症の方が相続人にいる場合の、相続手続きに関する相談が増えています。

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

  • 相続人に障害のある子がいる場合、金融機関での相続手続きの際に、成年後見人を付けなければ預金の解約ができないケースがある。
  • 相続手続きが見込まれる成年後見申立ての場合、本人の資産だけでなく、被相続人の遺産総額も考慮して、親族を成年後見人にすべきかの判断がされる。
  • 共同相続人である親族が成年後見人となる場合、相続手続きの際に、特別代理人の選任申立てが必要であること、成年被後見人には、最低限法定相続分を確保しなければならないという要件がある。

今回の記事では、当事務所で取り扱った解決事例を元に、金融機関での相続手続きと親族が成年後見人になるための申立て方法ををご紹介します。

障がいのある方が相続人となった場合に、金融機関から成年後見人の選任を求められた事例

60代の女性からのご相談です。
長男(40代・知的障害)、二男(30代)の2人の子供がいます。夫が亡くなり、相続手続きで銀行に行ったところ「長男に成年後見人を付けなければ解約できない」と言われました。成年後見の申し立て方法やその後の手続きが分からず悩んでいました。後見人には、相談者である母がなりたいと考えています。
遺産は、預貯金と自宅があります。

母(親族)が成年後見人になることができるか

このケースで1番重視すべき点は、母(親族)が後見人に選ばれるようにすることです。
専門職が後見人に選ばれると、専門職への報酬が発生します。長男はまだ40代と若いため、専門職が付いた場合の負担は大きくなります。
成年後見制度については別の記事で詳しく解説していますので、確認してみてください。

(1)親族が成年後見人となる場合の2つの判断基準

1.被相続人の遺産はいくらか
2.本人の現在の資産はいくらか

専門職が後見人に選ばれるケースの1つに、本人の資産が大きい場合があげられます。本人の流動資産が一定額以上(岐阜家庭裁判所では、1,200万円以上)ある場合は、後見制度支援信託・後見制度支援預金という制度の利用または、専門職を後見監督人に付けるという運用になります。そのため、「本人の流動資産がいくらあるのか」は、後見申立ての際には重要です。

また「亡き夫の遺産」は、一見すると長男の後見申立てに関係がないように思われるかもしれません。しかし、相続手続きをきっかけとして後見申立てをする場合には、被相続人の遺産がどれだけあるかは重要なポイントです。
なぜなら、後見人には最低限、法定相続分以上の財産を相続させなければならないというルールがあるからです。

今回のケースで、長男が600万円の預貯金を持っており、亡き夫の遺産が2,600万円とします。長男の法定相続分は遺産全体の4分の1であるため、650万円となります。そのため、最低でも650万円以上の財産を長男に相続させなければなりません。長男の資産だけで考えた場合は、親族が後見人に選ばれる可能性は高くなります。しかし、相続によって長男の資産は1,250万円(600万円+650万円)となり、信託規模の財産があるため、信託又は後見監督人が選任される可能性があります。

このように、個人(長男のみ)に焦点をあてて考えた場合と、全体(長男及び亡き夫)を見て考えた場合では、基本となる後見の運用が大きく異なるため、全体を見通して、どのような場合が想定されるかを正しく理解しておくことはとても重要です。

後見手続きをサポートしてくれる機関に、申立て書類の作成支援をお願いして申立てをしたものの、家庭裁判所から後見制度支援信託という話を聞かされて、「こんなことであれば申立てをしなければ良かった」と後悔している方も過去にはいました。

(2)親族が成年後見人となるケースでは特別代理人の選任が必要

後見の申立てをする方の多くは、何かしら後見申立てをしなければならない理由があります。
例えば、今回のケースのように相続のためや、不動産を売却する必要があるためなどです。これらの場合には、後見申立てだけでは終わらず、申立後に別の手続きが必要となります。

今回のケースでは、母親が後見人に選ばれた場合、母親、長男、二男の3人が亡き夫の遺産分割協議をする必要があります。しかし、母親は相続人であるのと同時に、長男の法定代理人という立場でもあり、両者の立場は利害が対立する関係にあります。このような行為を利益相反行為と呼び、利益相反行為をする場合には、特別代理人が必要となります。

特別代理人とは、後見人に代わって、被後見人(長男)を保護する立場の人です。特別代理人に特に資格はないため、一般的には親族がなることが多いです。特別代理人は、後見人が選任された後に、家庭裁判所に対し申し立てる必要があります。

申立てに必要な書類は、インターネットや家庭裁判所の案内を確認しながら一般の方でも作成することはできます。しかし、個々の事案によって申立後の流れは異なります。

今回のケースでは、①後見制度支援信託の利用や後見監督人が選任される場合があること、②相続手続きには、特別代理人選任申立てが必要であること、③長男には最低限法定相続分を確保しなければならないことをお伝えしました。後見制度支援信託は避けたいという要望があったため、長男には預貯金ではなく不動産を相続させることで、後見制度支援信託を利用することもなく、無事母親が後見人に選任されました。

後見申立てをする際のポイントは、銀行などに言われるがまま後見申立てをしないことです。専門家に何も相談しないで、後見申立てを自分で行う方が一定数います。また、専門機関に相談をしていても、あくまで書類作成についてサポートを受けているだけで、実際の中身については何も聞かされていないケースも多くあります。

まとめ

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

  • 相続人に障害のある子がいる場合、金融機関での相続手続きの際に、成年後見人を付けなければ預金の解約ができないケースがある。
  • 相続手続きが見込まれる成年後見申立ての場合、本人の資産だけでなく、被相続人の遺産総額も考慮して、親族を成年後見人にすべきかの判断がされる。
  • 共同相続人である親族が成年後見人となる場合、相続手続きの際に、特別代理人の選任申立てが必要であること、成年被後見人には、最低限法定相続分を確保しなければならないという要件がある。

一度申立てをしてしまえば、「こんなはずではなかった」と申立てを取り下げることはできません。
注意すべきポイントは、後見制度の利用にとって何を実現したいかであり、その意味において後見申立ては通過点に過ぎません。

後見の相談をする際は、ゴールまでの流れを正しく説明してくれる専門家に相談することが大切です。

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