相続登記の義務化。違反者には罰則も!知っておくべき相続登記にかかる費用

相続登記の義務化

親の相続で、田舎の田畑や別荘地として購入していた県外の山林があり、「これらを相続をしても処分することができないので、どうすればいいですか?」という相談が増えています。
このような不動産は、固定資産税が全くかからないか、かかるとしてもわずかであることが多いため、所有している分には負担になりません。
しかし、「将来自分の子供に相続させたくない」や「売ることもできない不動産のために、何万という登記費用を払いたくない」という理由で、相続登記を行わないケースもあります。

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

  • 現在、相続登記は義務ではなく期限もないが、2023年には相続登記、住所・氏名の変更登記が義務化される可能性が高く、正当な理由なく登記を怠った場合には過料に処される。
  • 相続登記を放置すると、不動産の売却、抵当権などの担保権の設定、空家バンクの登録手続きができないなどのリスクがある。
  • 相続登記は自分でもすることができるが、戸籍や登録免許税などの実費が発生するためタダで行うことはできない。 

今回の記事では、相続登記の義務化と相続登記の必要性や登記にかかる費用について解説していきます。

相続登記は義務?期限はある?

相続登記

現在は、相続登記は義務ではありません。また、相続手続きに期限もありません。
相続税が発生する場合は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に、相続税の申告と納税を行う必要があります。そのため、相続税がかかる方は申告期限内に相続登記まで行いますが、それ以外の場合は、不動産を処分したいなどの特別な事情がない限りは急いで行う必要がありません。

特に不動産については、名義変更がされていなくても「相続人代表」という形で納税をすることもでき、今まで通り使用することができるため、その必要性が分からず放置されることが多い手続きです。

 

相続登記を放置するデメリット

デメリット

登記手続きは義務でもなければ、期限もありません。しかし、相談を受けた際には必ず「早めに手続をしましょう」とお伝えします。
なぜなら、相続登記を放置した場合には、相続人の数が増えたり、面識のない相続人が現れることで、話し合いがスムーズにできなくなるおそれがあるからです。

また、相続が発生した当時は問題なかったが、実際に手続きをする際には、相続人の1人が認知症になってしまっているという、現代ならではの問題が発生するおそれもあります。そのような場合、成年後見人を選任しなければ、相続手続きをすることができません。

相続登記は、主に次のような場面で必要となります。

①不動産の売却手続き

 相続した不動産の売却をしたい場合は、たとえ相続人が1人の場合や、遺産分割協議で不動産を取
   得する人が決まっている場合でも、必ず相続登記を完了していなければ、不動産を売却することは
   できません。相続した不動産の売却をしたい場合は、たとえ相続人が1人の場合や、遺産分割協議
   で不動産を取得する人が決まっている場合でも、必ず相続登記を完了していなければ、不動産を売
   却することはできません。

②不動産に抵当権などの担保権を付ける

   親や祖父母が所有している不動産に、子や孫が自宅を建てるというケースはよくありますが、この
   時にも、相続登記がされていない場合には、自宅を建てることができません。なぜなら、自宅を建
   てる際に銀行から借入をすることがほとんどだと思いますが、その際に銀行は必ず建物と敷地を担
   保に取ります。

   不動産を担保に取る場合は、「抵当権設定登記」というものを行いますが、不動産の所有者が契約
   に関与する必要があるため、所有者が確定している必要があります。もし、相続の話し合いがまと
   まらず相続手続きを行うことができない場合、抵当権を設定することができないため、銀行からお
   金を借りることができず、結果的に家を建てることができなくなってしまいます。

③空家バンクに登録する

 相続した実家が空家になってしまい、管理していくことが難しいため、空家バンクを利用したいと
   いう場合にも相続手続きが必要となります。なぜなら、不動産を「売る」という手続きだけでなく、
   「貸す」場合にも不動産の所有者が契約を行う必要があるため、相続登記が完了していなければ、
   空家バンクに登録をすることもできません。

相続登記の義務化とその他の改正点

改正点

現在、「所有者不明土地」と呼ばれる、所有者が誰か分からず連絡がつかない土地が増加し、公共事業が進まないなどの問題が起きています。
実際に私が相続手続きに関与した案件でも、市が公共事業のために取得しようとしている土地に相続登記がされておらず、相続人調査をしたところ、相続人が20名以上おり、かつ外国籍の相続人がいたため、相続手続きに多額の費用と時間を要したものがありました。

そのようなことから、2021年2月10日に、法制審議会民法・不動産登記法部会において、「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」が決定されました。日本経済新聞の記事によると、政府は3月に改正案を閣議決定し、今国会で成立すれば、2023年度にも施行する予定とされています。

この改正のポイントは、次の2つです。

①相続登記の義務化

 不動産の登記名義人について相続の開始があったときは、相続により不動産を取得した人は、自分
 のために相続の開始があったこと及び所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権移
 転の登記を申請しなければなりません。これは、遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有
 権を取得した人も、同様とされています。そして、登記を申請すべき義務のある人が、正当な理由
 なくその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処されます。

 また、「相続人申告登記(仮称)」が創設され、所有権移転の登記を申請する義務を負う人が、法
 務局の登記官に対し、「所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登
 記名義人の相続人である旨」を申し出た場合、所有権移転の登記を申請する義務を履行したものと
 みなされます。この場合には、法務局の登記官が職権で、その旨並びに当該申出をした人の氏名及
 び住所の記載をします。
 なお、この登記官が行う登記は、相続を原因とする所有権の移転の登記ではなく、各事実について
 の報告的な登記として位置付けられるとされています。

②住所・氏名の変更登記の義務化

 所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、その変更があった
 日から2年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければなりません。
 そして、登記を申請すべき義務のある人が、正当な理由なくその申請を怠ったときは、5万円以下
 の過料に処されます。

相続登記にかかる費用

費用

相続登記が義務化され罰則があるとなれば、気になるのは相続登記をする場合にかかる費用ではないでしょうか。相続登記をする場合、自分で行うか専門家に依頼をするかのどちらかになります。
相続登記には、戸籍などを添付する必要があるため、その手数料と登録免許税という実費がかかります。これは、自分で登記手続きをした場合でも必ずかかるものです。事案によって、必要な戸籍の数や登録免許税は異なるため一概には言えませんが、親が亡くなり、所有している不動産が自宅の土地・建物のみという簡単なケースで、約3万円前後の実費がかかります。
もし、相続登記を専門家に依頼する場合には、さらに報酬として10万円前後の費用がかかると考えておくとよいでしょう。

なお、登記手続きを依頼することができる専門家は、「司法書士」と「弁護士」のみです。
相続手続きを扱っている「行政書士」もいますが、行政書士ができるのは、あくまで相続手続きに必要な書類を揃えることのみです。登記申請を代理で行うことはできないので、その点には注意してください。

また、弁護士に関しても、一般的に登記手続きに精通している方は少なく、登記が必要な案件がある場合は、弁護士も司法書士に依頼することが多いです。司法書士は、不動産以外にも預貯金の解約手続きなども行うことができます。そのため、不動産を所有している方の相続が発生した場合は、司法書士に依頼されることをお勧めします。

まとめ

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

  • 現在、相続登記は義務ではなく期限もないが、2023年には相続登記、住所・氏名の変更登記が義務化される可能性が高く、正当な理由なく登記を怠った場合には過料に処される。
  • 相続登記を放置すると、不動産の売却、抵当権などの担保権の設定、空家バンクの登録手続きができないなどのリスクがある。
  • 相続登記は自分でもすることができるが、戸籍や登録免許税などの実費が発生するためタダで行うことはできない。 

今回の記事では、相続登記の義務化と相続登記の必要性や登記にかかる費用について説明していきました。
今までは、相続登記をしていないことを知りながら、あえて相続登記をしないという選択をする方も一定数いましたが、相続登記が義務化されれば罰則もあるため、注意が必要です。今回の改正により、相続登記をする方が増えることが予想されますが、大切なのは罰則を課されないために登記を行うことではありません。違反した場合には、お金を支払うだけですが、複雑化した相続関係はお金では解決できない場合もあります。

また、登記にかかる費用としてお伝えした金額は、1回の相続が発生しているだけの基本的なケースのものです。相続登記が長期間放置され、複数の相続が発生している場合には、必要な戸籍の数も増え、手間も増えるので、当然かかるコストも高くなります。

重要なのは、相続人が少なく手続きが簡易なうちに、登記手続きを完了させることです。相続登記にかかる費用よりも、放置したことによるデメリットの方がその後に与える影響が大きいことを理解し、できるだけ早めに登記を行うことが大切です。

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