意外と知らない高齢者の財産管理方法。財産管理等委任契約
コロナウィルスの影響により、外出を控え、家に閉じこもりがちになる高齢者の方が増えています。銀行などに行きお金の出し入れをするという、日常において必要な行為も、感染の恐れがあることから不安に感じるかもしれません。今後もこのような状況が続くことを考えると、自分の財産管理を家族などに任せたいと考える方も出てくるのではないでしょうか。
今回の記事のポイントは、下記の3つです。
- 高齢者の財産管理方法には、「成年後見」「任意後見」「財産管理等委任契約」「家族信託」の4つがある。
- 財産管理等委任契約は、自由度も高く便利な半面、財産管理等委任契約には対応していない銀行もあることや、監督機関がないなどのデメリットもあるため注意が必要。
- 財産管理等委任契約だけではなく、「任意後見契約」「見守り契約」をセットで契約することで、老後の財産管理等を切れ目なく支援することができる。
今回の記事では、高齢者の財産管理方法としてあまり知られていない「財産管理等委任契約」について解説していきます。
高齢者の財産管理方法
高齢者の財産管理方法には、次の4つがあります。
(1)成年後見
成年後見制度は、認知症や知的障害などの理由で、判断能力が不十分な方を、法律面や生活面で保護・支援する制度です。判断能力に応じて「補助」「保佐」「後見」の3つの類型に分かれています。家庭裁判所への申立てが必要となります。
(2)任意後見
任意後見制度とは、将来認知症などで自分の判断能力が低下した場合に、自分が信頼できる人に自分の後見人になってもらうことをお願いする制度です。あらかじめ自分が信頼できる人(任意後見人)との間で、公正証書により任意後見契約を結ぶ必要があります。
任意後見人は、あらかじめ任意後見契約で定めた内容に従って、本人の「財産の管理」や介護サービス契約の締結、老人ホームへ入居する場合の入居契約を締結などの「介護や生活面の手続き」をすることができます。
(3)財産管理等委任契約
財産管理等委任契約とは、判断能力はあるが、寝たきりの状態や身体的な障害により、預貯金の入出金などの財産管理を行うことが難しい場合や、公共料金や医療費の支払いなど生活上の事務を行うことが困難な場合に、それらについて代理権を与えるものです。任意代理契約とも呼ばれ、裁判所の関与なく、代理人との間で契約を結ぶことで成立します。
(4)家族信託
家族信託とは、本人が元気なうちに、自分の財産を信頼できる家族に託し、その管理や処分を任せる財産管理方法です。信頼できる家族(受託者)に自分(委託者)の財産を託し、自分や大切な人(受益者)のためにその管理を任せるものであり、受託者は信託契約で定められた目的に従って管理・処分を行います。受託者との間で信託契約を結ぶことで成立します。
各制度との比較
各財産管理方法には、次のような違いがあります。
成年後見 | 任意後見 | 財産管理等委任契約 | 家族信託 | |
判断能力の有無 | 判断能力が不十分であること | 判断能力が必要 | 判断能力が必要 | 判断能力が必要 |
利用方法 | 家庭裁判所に申立 | 公正証書で、任意後見契約を結ぶ | 当事者間で委任契約を結ぶ(私文書でも可) | 当事者間で委任契約を結ぶ(私文書でも可) |
開始時期 | 後見開始の審判確定付後 | 判断能力が不十分になり、任意後見監督人が選任された時 | 契約書で定めた時 | 契約書で定めた時 |
取消権 | ある(保佐・補助の場合は、特定の行為のみ) | ない | ない | ない |
監督機関 | 家庭裁判所 | 任意後見監督人 | 法律の定めなし | 法律の定めなし |
財産管理等委任契約のメリット・デメリット
成年後見制度は、判断能力が低下していることが要件であるため、身体的な理由により財産管理などに不都合が生じている方は利用することができません。
そこで、判断能力に問題はないが、財産管理やその他の手続きを任せたい場合は、財産管理等委任契約を結ぶことが有効です。
財産管理等委任契約には、次のようなメリット・デメリットがあります。
<メリット>
・判断能力がある場合でも、利用することができる
・契約を結んだ後すぐに効果が生じる
・当事者間で自由に内容を決めることができる
・手続きの度に委任状を用意する必要がない
<デメリット>
・契約の方法は私文書でもよいため、社会的な信用力が低い
・当事者間の契約であり、第三者の監督機能がないため、委任された人の不正を防止することができない
・成年後見制度のような取消権がない
・財産管理等委任契約には対応していない金融機関もある
ここで、注意すべきなのが「財産管理等委任契約には対応していない金融機関もある」ということです。
この財産管理等委任契約を結びたいと考える理由の1つに、身体的な理由などにより銀行に出向くことが難しい場合に、代わりに手続きをしてほしいというものがあります。しかし、財産管理等委任契約に対応していない銀行や、対応していても必ず本人と合って確認をする銀行もあり、委任契約書だけでは代理人として認められない場合があります。そのため、銀行の窓口での手続きを予定している場合は、あらかじめ銀行に確認したうえで、財産管理等委任契約を結ぶことをお勧めします。
財産管理等委任契約と任意後見契約
財産管理等委任契約は、判断能力が低下する前から利用することができるというメリットがありますが、裏を返せば、判断能力が低下した場合には、後見制度に移行していく必要があるということです。
そこで、財産管理等委任契約は、将来的に判断能力が低下する場合に備えて、任意後見契約とセットで結ぶことが望ましいと考えられています。このように、本人に判断能力があるうちは、財産管理等委任契約により財産管理等を行い、本人の判断能力が低下した後は、任意後見に移行し後見事務を行い、同じ人に継続して財産管理等をしてもらう形態のものを「移行型任意後見契約」と呼んでいます。
本人に判断能力がある間は、本人が代理人を監督することができますが、本人の判断能力が低下すると、監督ができなくなってしまうおそれがあります。そのような状態になると、代理人による不正が起きるリスクが高まるため、任意後見契約に移行し任意後見監督人が付くことで、代理人による不正を防止する効果があります。
ただし、財産管理等委任契約から任意後見契約に移行するためには、本人の判断能力が低下した後に、任意後見監督人の選任申立をする必要があります。本人自ら、自分の判断能力が低下していることを認識して申立てをすることができる場合はよいですが、判断能力の低下を認識しているにも関わらず、あえて申立てをしないケースもあります。そのため、適切なタイミングで申立てを行うために、「見守り契約」も加えておくと安心です。
見守り契約とは、任意後見契約を結んだ後、任意後見が始まるまでの間に、支援する人が定期的に本人の生活状況や健康状況を電話で確認したり、面会したりして、本人の判断能力等を把握し、任意後見契約に移行すべきかどうか判断するための契約です。
高齢者の財産管理としての対策を取る場合には、各制度の「始まり」と「終わり」に気をつけなければいけません。財産管理等委任契約しかしていない場合は、判断能力が低下した後は対応することができません。一方、任意後見契約しかしていない場合には、判断能力が低下する前は対応することができません。
このように、各制度によって効力の発生時期と終了の時期が異なるため、切れ目なく高齢者の財産管理を継続したい場合には、各制度を組み合わせることが必要です。
まとめ
今回の記事のポイントは、下記の3つです。
- 高齢者の財産管理方法には、「成年後見」「任意後見」「財産管理等委任契約」「家族信託」の4つがある。
- 財産管理等委任契約は、自由度も高く便利な半面、財産管理等委任契約には対応していない銀行もあることや、監督機関がないなどのデメリットもあるため注意が必要。
- 財産管理等委任契約だけではなく、「任意後見契約」「見守り契約」をセットで契約することで、老後の財産管理等を切れ目なく支援することができる。
今回の記事では、高齢者の財産管理方法としてあまり知られていない「財産管理等委任契約」について説明していきました。
高齢者の中には、まだ判断能力が低下しているわけではないものの、病気や加齢により、足腰が不自由になり、代理人を選んで生活の支援や財産管理等の事務を任せたいと考えている方もいるのではないでしょうか。
高齢者の財産管理には、「1つの対策だけで大丈夫」ということはありません。
各制度のメリット・デメリットを正しく理解し、希望に応じて各制度を組み合わせることにより、老後の不安を解消することができます。