音信不通の相続人がいる場合の相続手続きの流れとは?解決事例をもとに解説

相続手続きは、相続税のかからない方であれば、手続きに期限はありません。そのため、長い間放置される方もいます。
しかし、長期間放置することで、相続人の中に、音信不通の人がいる場合も出てきます。

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

  • 相続の手続きでは、まず被相続人の出生から死亡までの戸籍を取得し、相続人が誰であるかを確定する作業が必要。
  • 音信不通の相続人で連絡先を知らない場合でも、戸籍の附票を取得することで、住民票上の住所地を調べることができる。
  • 音信不通の相続人へ連絡する際は、最初の印象がその後の話し合いに影響すると言っても過言ではないため、被相続人との関係性や、音信不通の相続人の年齢などからどのようにアプローチするかを、検討することが必要。

今回の記事では、当事務所で取り扱った解決事例を元に、相続人の中に、音信不通の方がいる場合の相続手続きの流れについてご紹介します。 

音信不通の相続人がおり、どのように連絡をとればよいのか分からなかった事例

70代の男性からのご相談です。
父親が亡くなり、相続の手続きをしたいです。私には兄がいますが、兄は父より先に亡くなっています。兄には妻と子供がいるようですが、長年兄とは疎遠であったため、兄の妻や子供とは交流がなく、どこに住んでいるのかも分かりません。

 

相続の流れ

①戸籍の収集と相続人の確定作業

相続手続きを行う際に、一番初めに行うことは、相続人の確定作業です。相続の際は、被相続人の出生から死亡までの戸籍の収集を行います。戸籍から、結婚・子の出生・養子縁組・子の認知の有無を確認し、相続人を確定します。

例えば、離婚歴のある方の場合、前妻との間に子供がいれば、前妻との間の子も相続人となります。戸籍を取得したことで、初めて異母兄弟がいることを知るケースもあるため、思い込みで相続人を判断することはできません。

また、今回の事例のように、相続人の中に既に亡くなっている人がいる場合も注意が必要です。今回の事例では、被相続人より先に本来の相続人である子供(兄)が亡くなっています。このような場合には、兄の子供(被相続人からみると孫)が相続人となります。このような相続を「代襲相続」と言います。

しかし、仮に被相続人より後に子供(兄)が亡くなっていた場合は、相続人が変わってきます。このように、被相続人が死亡した後に、遺産分割協議をしないまま、相続人が亡くなってしまい、次の相続が始まることを「数次相続」と呼びます。今回の事例が数次相続の場合は、兄の妻と子供が相続人となります。

このように、死亡の時期によって相続人が変わることもあるため、相続の手続きの際には、戸籍を正しく読む作業が必要となります。

②遺産の調査

被相続人の遺産が何かを把握する作業も重要となります。なぜなら、被相続人に借金などがあった場合、プラスの財産だけではなく、マイナスの財産も相続の対象となります。

音信不通の相続人がいる場合には、その相続人は、被相続人が死亡したことはもちろんですが、どのような遺産を持っていたのかも分かりません。プラスの財産だけで借金はないのか、不動産はあるか、預貯金はあるかという情報は、相続手続きの際に重要な情報となります。そのため、自分自身のためだけでなく、他の相続人に正しく相続の情報を開示するためにも必要な作業となります。

③相続人への連絡

戸籍を収集し、相続人を確定する作業ができた場合、相続人の住民票上の住所を調べることができます。住所地が分かっている場合は、直接住民票を取得することができますが、音信不通の相続人の場合には、当然住所が分かりません。そのような場合には、「戸籍の附票」を取得します。

戸籍の附票は、本籍地のある市区町村で管理しているもので、その戸籍が作られてから現在に至るまでの住所の経歴が記録されたものです。戸籍の附票を取得することで、現在の住民票上の住所地を調べることができます。そのため、音信不通の相続人の電話番号が分からない場合でも、住民票上の住所へ手紙を出すことで連絡を取ることができます。

音信不通の相続人へ連絡をする際の注意点

音信不通の相続人への最初の連絡は、とても重要です。最初の印象によっては、相手方との交渉が上手くいかなくなる可能性もあります。

初めて手紙を出す際には、最低限以下の内容を記載します。
①相続が発生していることや亡くなった経緯
②手続きに協力して欲しい旨
③自分の連絡先

最初の手紙で、遺産の詳しい内容まで記載するかは、ケースバイケースですが、借金がない場合は、相手を安心させる意味で、最低限マイナスの財産はない旨を記載しても良いかと思います。また、遺産分割協議書の案を送る場合もありますが、あくまで「案」であって、確定した内容のように送ることは避けるべきです。
音信不通の相続人にも法定相続分を確保する内容であれば問題ありませんが、法定相続分を下回る場合や、全く相続させない内容の場合、相手が気分を害し、手続きに協力してくれなくなる可能性があります。

音信不通の相続人に連絡をする際は、被相続人との関係性や、年齢、性別などにより、どのようなアプローチをすべきか検討した上で、手紙を出すことが重要です。

過去には、相手方が高齢の女性であったため、パソコンではなく手書きで、手紙を書いていただくよう相談者にアドバイスをしたこともありました。

また、相手が手紙に対する返事をしやすい方法を考えることも大切です。自分の電話番号だけを記載した場合、会ったこともない相続人に対して電話をかけることを躊躇する方もいるでしょう。相手が若い方であれば、メールアドレスを記載したり、手続きへの協力の有無をチェックする形式の回答書を同封するなどの配慮が必要です。過去には、手紙をくれた相続人と長年話していなかったため、電話を躊躇し、何も返事をもらえませんでしたが、メールでのやり取りを提案したら、スムーズに手続きに協力していただけたケースもありました。

このように、「返事がない」と言っても、手続きに協力する意思がないのか、単に連絡手段に抵抗を感じて返事をしないのかは分かりません。一方的にこちらの気持ちや要求を伝えるものではなく、相手の負担にならないよう配慮することも必要です。

事務所からの提案

音信不通の相続人へは、最初の手紙で具体的な内容には触れず、被相続人が亡くなった経緯などを書いた手紙を送りました。また、司法書士の名前で手紙を出すこともできますが、一般の方は、突然司法書士から手紙が来た場合に、驚かれる可能性があります。そこで、あくまで差出人は相談者自身で、手続きの一般的な内容について質問がある場合には、司法書士が対応する旨の内容の手紙を出すようアドバイスをし、手紙の文案サポートも行いました。司法書士が相手方の自宅に赴き、丁寧に手続きの方法を説明することで、何も遺産を受け取らないという内容の遺産分割協議書でしたが、納得していただき、無事遺産分割協議が整いました。

まとめ

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

  • 相続の手続きでは、まず被相続人の出生から死亡までの戸籍を取得し、相続人が誰であるかを確定する作業が必要。
  • 音信不通の相続人で連絡先を知らない場合でも、戸籍の附票を取得することで、住民票上の住所地を調べることができる。
  • 音信不通の相続人へ連絡する際は、最初の印象がその後の話し合いに影響すると言っても過言ではないため、被相続人との関係性や、音信不通の相続人の年齢などからどのようにアプローチするかを、検討することが必要。

相続の手続きでは必ず戸籍を取得します。戸籍を取得するということは、その人に婚姻歴があるかや、子の有無など、とてもプライベートな内容を赤の他人が知ることができてしまうと言うことです。だからこそ、音信不通の相続人との連絡は慎重にすべきです。
また、一度人間関係が壊れてしまえば、元に戻すことはまず不可能です。
そのため、音信不通の相続人がいる場合の相続手続きは、専門家の力を借りて行うことが大切です。

 

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