【司法書士監修】認知症や障がいのある方でも相続放棄はできる?

疎遠な兄弟や叔父叔母など、生前関わりのなかった人が亡くなり、知らない間にその人の相続人なっている場合があります。もし被相続人に借金がある場合等は、相続放棄をするのが一般的です。
では、相続人の中に、認知症や障がいのある方がいる場合は、どのように手続きをすればよいのでしょうか。

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

  • 相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所に対して相続放棄の申述をしなければならない。
  • 相続人が未成年者又は成年被後見人の場合、相続放棄ができる期間は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算される。
  • 認知症や障がいのある方の後見人が親族である場合には、後見人が相続放棄を行うことが利益相反行為となるおそれがあるので、注意する必要がある。

今回の記事では、認知症や障がいのある方がいる場合の相続放棄の注意点と手続の流れについて解説していきます。

相続放棄とは?

相続放棄とは、被相続人の財産の一切を相続したくない場合に、その権利を放棄するものです。
よく混同されるものとして、相続の際に遺産を1円も受け取らないことを“放棄”と考える方がいます。しかし、遺産分割協議のうえ、財産を一切受け取らないと決めることは相続放棄とは異なります。このような相続手続きを行うと、たとえプラスの財産を受け取らない場合でも、マイナスの財産も同時に相続してしまいます。当事者間で、「借金は相続人の中の1人が相続する」という合意をしても、債権者である第三者には対抗することができません。そのため、債権者は、当事者間の合意を無視して借金の返済を求めることができてしまいます。 
一方、相続放棄は、プラスの財産だけでなくマイナスの財産も全て相続しないため、当然、借金を支払う義務も免れることができます。
相続の際には安易に手続きをすることなく、相続財産を正しく把握したうえで、手続きを取ることが大切です。

相続放棄に期限はある?

相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をしなければなりません。(民法915条)
このように、いつでも相続放棄ができるわけではなく「3ヶ月」という期限があります。そのため、自分が知らないうちに誰かの相続人になっていた場合、「自己のために相続の開始があったことを知った時」は、「被相続人が亡くなっていること及び自分が相続人であるという事実を知った時」となります。一般的には、債権者などから手紙が来た時に知ることになるでしょう。
もし第1順位(配偶者や子)の相続人全員が相続放棄をした場合、兄弟や親などの第2順位の人が新たな相続人となります。

このような場合における「自己のために相続の開始があったことを知った時」は、「先順位の相続人が相続放棄をし、自分が相続人となったことを知った時」となります。
なお、先順位の相続人全員が相続放棄をし、次の順位に相続権が移った場合でも、その連絡が家庭裁判所から来ることはありません。そのため、相続放棄をした事を次の人に教えてあげなければ、次の人は知ることができないのです。
そのため、家庭裁判所からの手紙にも「あなたの他の相続人や、あなたが相続を放棄したことによって新たに相続人になった人がいれば、あなたの相続放棄申述が受理されたことを連絡してあげるのが親切です。」と書かれています。次の人へ知らせることは義務ではありませんが、できるだけ知らせてあげるのが良いでしょう。

認知症の方や障がいのある方が相続放棄をする場合の期限

では、認知症の方や障がいのある方が相続放棄をする場合の期限はどうなるのでしょうか。
認知症の方や障がいのある方で判断能力がない場合、相続の開始があったことを判断することができません。また、相続放棄は法律行為であるため、相続放棄の申述をするには判断能力が必要となります。
そのため、これらの場合には、相続放棄の申述をする前に、「成年後見人」を選任しなければなりません。成年後見人が選任されると、成年後見人が本人に代わって相続放棄の申述を行います。
成年後見の申立を行い、成年後見人が選任されるまでには、通常1ヶ月以上の期間を要します。そのため、原則通りで判断すると、申立の手続きをしている間に3ヶ月の期限がきてしまう恐れがあります。そこで、「相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、第915条第1項の期間は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する」(民法917条)とされています。
つまり、成年後見人が選任され、その成年後見人が相続開始の事実を知った時から3ヶ月となります。
そのため、相続人に認知症の方や障がいのある方がいる場合でも、「成年後見申立をしている間に期限が切れてしまう」ということはないので安心してください。

親族後見人が相続放棄をする場合の注意点

認知症の方や障がいのある方でも、成年後見人がつけば相続放棄ができるとお伝えしましたが、例外があるので注意が必要です。
最も一般的なケースは、被後見人と後見人が共同相続人である場合です。例えば、父が亡くなり、認知症の母と子が相続人で、子が母の後見人になっているとします。

このケースでは、子供は母親の後見人という立場と、共同相続人という2つの立場があります。もし、後見人である子が代理人として母親の相続放棄を行った場合、子が単独の相続人となります。父親に借金がなくプラスの財産だけの場合、子供が全ての遺産を相続できてしまい、子供にとって都合の良い行為を勝手にできてしまうことになります。このような行為は利益相反行為と呼ばれ、禁止されています。
では、このケースで父親に借金がある場合は、どうすれば良いのでしょうか。この点に関しては、以下の判例(最判昭和53年2月24日)があります。
「共同相続人の一人が他の共同相続人の全部又は一部の者の後見をしている場合において、後見人が被後見人全員を代理してする相続の放棄は、後見人みずからが相続の放棄をしたのちにされたか、又はこれと同時にされたときは、民法860条によつて準用される同法826条にいう利益相反行為にあたらない」
つまり、このケースでは子が母より先に相続放棄を行うか、母と同時に相続放棄を行う場合のみ、後見人である子が母の相続放棄を行うことができます。もし、子が相続放棄を行わない場合には、特別代理人の選任が別途必要となります。
この事例はあくまで一例であり、事案によっては利益相反行為と判断される場合もあるので、親族が後見人である場合には利益相反とならないかの確認が必要です。

相続放棄の手続きの流れ

(1)相続放棄申述書の作成

相続放棄の申述書は、家庭裁判所のHPから取得することができます。
なお、相続放棄申述書には下記の書類を添付します。

(共通する書類)
・申述人の戸籍謄本
・被相続人の戸籍の附票又は住民票の除票
・収入印紙800円分
・切手(各家庭裁判所によって異なります)

(申述人が配偶者・第1順位の相続人の場合)
・被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
・(第一順位の相続人が孫の場合は)孫の親(被相続人の子)の死亡の記載のある戸籍謄本

(申述人が第2順位・第3順位の相続人の場合)
被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本
・(第3順位の相続人の場合は)第2順位の相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
・(第3順位の相続人が甥姪の場合は)甥姪の親(被相続人の兄弟の)の死亡の記載のある戸籍謄本

(2) 相続放棄申述書の提出

相続放棄の申述は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。なお、相続放棄申述書は、持参又は郵送の方法により行うことができます。

(3)家庭裁判所から届く照会書の返送


相続放棄の申述をすると、しばらくして家庭裁判所から相続放棄の照会書が届きます。相続放棄を行う場合には、この照会書に回答しなければなりません。
なお、相続放棄の申述は必ず受理されるわけではありません。この照会書の内容によっては、相続放棄が認められない場合もあります。また、1度相続放棄が認められないと、2度と同じ被相続人について相続放棄をすることはできないので、慎重に回答する必要があります。
専門家へ相続放棄の手続きを依頼した場合には、照会書への記入方法についてもサポートしてくれます。

(4)相続放棄申述の受理


相続放棄が無事受理されると、「相続放棄申述の受理通知書」が届きます。この通知書が届いて初めて相続放棄の手続きが完了します。
被相続人の債権者から借金の返済等を求められた場合は、受理通知書のコピーを提示します。なお、この受理通知書は再発行されませんので、間違っても原本を渡さないようにしてください。
相続放棄の申述が受理された後は、「相続放棄申述の受理証明書」を別途取得することができます。受理証明書は、相続放棄の事実を証明するもので、受理通知書と同じ効力があります。受理通知書は無料で発行されますが、受理証明書を取得する場合には、1通150円の手数料がかかります。
なお、以前は相続登記を行う際に、受理通知書を登記の添付書類として使用することはできず、必ず受理証明書を取得する必要がありました。しかし、現在では登記の際にも受理通知書を使用できることになったため、あえて受理証明書を取得する必要はないでしょう。

まとめ

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

  • 相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所に対して相続放棄の申述をしなければならない。
  • 相続人が未成年者又は成年被後見人の場合、相続放棄ができる期間は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算される。
  • 認知症や障がいのある方の後見人が親族である場合には、後見人が相続放棄を行うことが利益相反行為となるおそれがあるので、注意する必要がある。

今回の記事では、認知症や障がいのある方がいる場合の相続放棄の注意点と手続の流れについて説明していきました。

相続放棄を行う場合に、一番時間がかかるのが戸籍の収集です。専門家であればすぐに戸籍を集めることがきるかもしれませんが、一般の方の場合は、予想以上に時間がかかるかもしれません。相続放棄をすることができる期間は3ヶ月と短いため、早急に動く必要があります。また、相続放棄の前提として後見人の選任が必要な場合には、後見人が親族が否かで、特別代理人の選任が必要となるかの判断も変わります。
 後見人が付いている方の相続放棄は複雑になるので、その手続を専門家へ依頼するかは別として、手続方法や必要書類などについて、早めに専門家へ相談することをお勧めします。

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