認知症・障がいのある方がいる場合の遺産分割協議には裁判所の許可が必要?

相続人中に、認知症や障がいのある方がいる場合には、遺言書の作成をお勧めしています。
しかし、実際に遺言書の作成をされる方はごくわずかです。「なぜ専門家が強く遺言書の作成を勧めるのか」という理由をしっかり把握していない方も多いのではないでしょうか。

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

  • 判断能力がない方が行った遺産分割協議は無効となるため、相続人の中に認知症や障がいのある方がいる場合、成年後見人を選任しなければならない。
  • 後見人が遺産分割協議をする場合には、被後見人のために法定相続分を確保しなければならないというルールがあり、実質的に裁判所の許可に近いものが必要となる。
  • 後見人と被後見人が共同相続人となる場合には、成年後見申立とは別に特別代理人の選任申立をしなければならない。

今回の記事では、認知症や障がいのある方が相続人の中にいる場合における、遺産分割協議の注意点について解説していきます。

相続手続きの流れ

相続手続きの流れを知らないため、将来どのような問題が起こるのかが分からず、結果的に相続対策の必要性を感じないという方も多いのではないでしょうか。
まずは、相続手続きの流れを正しく理解することが大切です。

相続が開始した場合の手続きの流れは以下のとおりです。

亡くなった方が遺言書を作成していたかどうかで、その後の手続の流れは大きく変わります。
遺言書がない場合には、相続人全員での遺産分割協議が必要となります。この時に、相続人に判断能力がなければ遺産分割協議をすることはできません。つまり、相続人の中に認知症や障がいのある方がいる場合には、遺産分割協議ができないということになります。このような場合には、認知症や障がいのある方に成年後見人を選任しなければなりません。

また、遺産分割協議を行った場合には、その内容を記した遺産分割協議書を作成します。この遺産分割協議書には、相続人全員が実印で押印し、印鑑証明書を添付します。認知症や障がいのある方でも、実印の登録をしている場合には、ご家族で印鑑証明書を取得できてしまいます。遺産分割協議書の内容は理解できなくても、名前を書くことができ、印鑑証明書を取得できてしまえば形式的に遺産分割協議書を整えることはできてしまいます。
しかし、遺産分割協議において重要なのは、形式的な要件を満たすことではなく、相続人間で合意した内容を正しく理解することです。また、判断能力がない方がした法律行為は無効となります。したがって、たとえ形式的な要件を満たしており、その内容が認知症や障がいのある方にとって有利な内容であったとしても、認知症や障がいのある方が行った遺産分割協議は無効となります。

「成年後見人を選任したくない」や、「誰にも分からないだろう」という考えで、遺産分割協議書を作成してしまうことがないよう注意しましょう。

 

遺産分割協議書作成の際の注意点

後見人の職務とは

後見人には「財産管理権」「代理権」「取消権」といった権利があるほか、義務として「善管注意義務」があります。
善管注意義務とは、通常の注意義務(自分のためにする時の注意の程度)よりも高度な注意義務のことです。もし、この注意義務に違反し、被後見人に損害を与えた場合は、賠償責任が生じます。

家庭裁判所の許可

後見人が選任された場合には、後見人が被後見人に代わって遺産分割協議を行います。後見人が遺産分割協議を行う場合には、被後見人だけが不利益を被ることがないよう配慮しなければなりません。なぜなら、後見人には善管注意義務があり、被後見人の権利を守ることが職務のためです。
つまり、被後見人だけが不利益を被ることがないよう配慮するとは、原則として、被後見人の法定相続分を確保することが求められるということです。そのため、勝手に相続放棄をしたり、法定相続分よりも少ない取り分で協議に応じることはできません。

ただし、法定相続分を確保することが困難な特殊な事情がある場合には、家庭裁判所と相談の上、認められる場合もあります。法定相続分を下回る遺産分割協議はあくまで例外的にしか認められないため、このような場合には必ず、事前に家庭裁判所へ相談を行ってください。

なお、遺産分割協議書をする際に、家庭裁判所の許可が必要なわけではありません。そのため、裁判所の許可を得ることなく遺産分割協議を行うことができます。
しかし、遺産分割を行った場合は、その結果を裁判所への定期報告の際に報告しなければなりません。報告書には、遺産分割協議書の写し、遺産の内容や価額の分かる資料を添付するため、どのような遺産分割を行ったのかは、必ず裁判所が知ることになります。もし被後見人に不利な内容で遺産分割を行っていた場合には、善管注意義務違反を問われる可能性もあります。
そのため、成年後見人が行う遺産分割協議は、実質的に裁判所の許可に近いものが必要となることに注意が必要です。

特別代理人の選任

後見人と被後見人が共同相続人である場合には、後見人が被後見人に代わって遺産分割協議をすることはできません。このような行為は利益相反行為と呼ばれ、禁止されています。そのため、このような場合には、被後見人に特別代理人を選任しなければなりません。

成年後見の申立をする段階で、後見人候補者を親族とする場合は、その後に特別代理人の選任申立が必要となることも考慮しておく必要があります。なお、成年後見の申立と特別代理人の選任申立は同時に行うことができません。なぜなら、後見人が正式に決定するまでは、特別代理人が必要となるかが確定しないためです。成年後見開始の審判が確定し、約1ヶ月後に成年後見人選任の登記が行われますが、少なくともこの登記が完了するまでは特別代理人が選任されることはありません。また、成年後見人が選任されるまでにも約1ヶ月ほどの期間がかかります。そのため、特別代理人が必要となる場合にはそこからさらに時間がかかることになります。

親族を後見人とする成年後見の申立を予定している場合には、申立てから実際に遺産分割協議ができるまでに、最低2ヶ月はかかると考えておくとよいでしょう。

まとめ

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

  • 判断能力がない方が行った遺産分割協議は無効となるため、相続人の中に認知症や障がいのある方がいる場合、成年後見人を選任しなければならない。
  • 後見人が遺産分割協議をする場合には、被後見人のために法定相続分を確保しなければならないというルールがあり、実質的に裁判所の許可に近いものが必要となる。
  • 後見人と被後見人が共同相続人となる場合には、成年後見申立とは別に特別代理人の選任申立をしなければならない。

今回の記事では、認知症や障がいのある方が相続人の中にいる場合における、遺産分割協議の注意点について説明していきました。

成年後見の申立をすれば、原則本人が亡くなるまで後見人をやめることはできません。相続のために必要であっても、相続が完了した後もずっと手続きは続きます。そのようなデメリットだけでなく、遺産分割協議も家族の思うようには進められない可能性もあります。

また、多額の借金をし、今まで家族に迷惑をかけてきた等の理由で遺産を渡したくない相続人が、たまたま判断能力がない場合もあります。
障がいのある方がいるご家族の場合、親が子供の障害年金にはあまり手を付けなかったため、障がいのある子の資産が多いことがあります。このような方が相続でさらに財産を取得してしまった場合、後見制度支援信託という制度の利用や後見監督人を付けられることを求められる可能性があります。

後見制度支援信託については、下記の記事で解説してますので、確認してみてください。

財産が多い方は要注意!親族が後見人になるための2つの条件


障がいのある子がいるご家族は、後見制度をできるだけ利用したくないと思っている方が多いです。子供の資産が多い方の場合、ただでさえ利用したくない制度を利用するだけでなく、財産管理の面でさらに監督が厳しくなる可能性があります。
裁判所が関与するということは、みなさんが想像する以上に不便なことが多いのです。裁判所が関与しない、成年後見人が必要とならない対策を事前に取ることが大切です。

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