未成年障害者の親が知っておくべき親なきあと問題解決の3つのポイント

障害のある子を持つ親は、親なきあとについて不安を感じる方も多いと思います。しかし、子どもが未成年の場合、「まだ先の話だから」、「自分は当分元気だから問題ない」と先送りにしてしまう方も多いのではないでしょうか。

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

  • 子どもが成人したら、親権はなくなる。
  • 民法が改正され、2022年4月1日から、成人年齢が18歳に引き下げられる結果、障害の子である子の未成年である期間が短くなる。
  • 親権を利用し、未成年障害者の任意後見契約を結ぶことで、後見人を親が決めることができる。

親なきあと問題には、今しかできない対策もあります。 今回の記事では、未成年障害者の親なきあと問題を解決する思考法と、具体的な解決策について説明していきます。

親権とは?

障害のある子をもつ親が抱える悩みは、大きく「お金の管理」と「生活の場所」に分けられるのではないでしょうか。
法律上、お金の管理は「財産管理権」、生活の場所を決めたり、本人のために診療・介護・福祉サービスなどの利用契約を結ぶことなどを、「身上監護権」と言います。

親権という言葉は誰もが聞いたことがあると想いますが、親権とは何かを正確に理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。
「親権」とは、未成年の子の教育監護、財産管理をし、かつその子を代理して法律行為を行う権利のことです。つまり、親権には「財産管理権」と「身上監護権」があります。

未成年の子名義の通帳を作ったり、未成年の子名義で携帯の契約ができるのも、この親権を利用して、親権者が本人を代理したり、本人に同意をしているからです。つまり、未成年のうちしか、親が子を代理することはできません。

障害のある子が成人に達した後に、医療サービスや福祉サービスを利用する場合、これらも法律行為であるため、本人に判断能力がない場合は、本来であれば、成年後見人等を選任して、その者が本人を代理して契約をしなければなりません。しかし、実際には、このような場合でも親が代わりに契約をしていることが多いのではないでしょうか。そのため、子どもが成人しても、親権がないことの不便さを特別感じることはないかもしれません。

しかし、厳格にこの権限が求められる場面があります。それは、多額の預貯金の引出しや相続手続きの場面です。これらの場合には、必ず本人の意思確認が必要となるため、成年後見人の選任を余儀なくされてしまいます。

そのため、障害のある子を持つ親にとって、親権はとても重要ですが、民法が改正され、2022年4月1日から、成人年齢が18歳に引き下げられます。
つまり、2002年4月2日生まれから2004年4月1日生まれまでの人は、2022年4月1日をもって成年に達することになるため、未成年である期間が短くなってしまいます。

 

子が未成年のうちしかできない対策とは?

障害のある子の財産管理を代わりに行う場合、成年後見人の選任が必要となります。障害を持つ子の親であれば、自分が子どもの後見人を選びたいと思うのではないでしょうか。

しかし、成年後見人は親が決めることはできません。なぜなら、成年後見人を選ぶのは、家庭裁判所でだからです。
障害のある子を持つご家族の財産管理対策としての成年後見制度については、下記の記事で詳しく解説してますので、確認してみてください。

障害者の親なきあと問題に悩む親がとるべき認知症対策の3つのポイント


そこで、親が子どもの成年後見人を選ぶことができる制度として、「任意後見契約」があります。「任意後見契約」とは、本人に判断能力があるうちに、将来支援の必要が出てきた際に、あらかじめ自分で選んだ人(任意後見人)に、財産管理などの代理権を与える契約です。子が未成年の場合には、親が子を代理して、任意後見契約を結ぶことができます。

その子に契約締結能力がない場合(知的障害の程度が重い場合等)には、信頼できる人を見つけて、その人との間で、子が未成年であれば親が親権に基づいて、親が子を代理して任意後見契約を締結しておくことができると考えられます。
日本公証人連合会ホームページより引用)

つまり、一方の親が子どもを代理して、もう一方の親と任意後見契約を結ぶことができるということです。ただし、ここで注意が必要なのが、この方法は手続きとして確立していないということです。手続きに関わる専門家や公証人によって、意見が分かれることがあります。

したがって、せっかく契約を結んでも、将来後見をスタートする際に、裁判所に認められない場合があるかもしれません。このように聞くと、「時間とお金をかけても無駄に終わるなら意味がない」と感じる方もいると思います。また、「なぜ、そこまでして後見人を親が決める必要があるのか?」と感じる方もいるかもしれません。

私には、重度の障害を持ついとこがいます。いとこは、話すこともできないので、私や親戚が感情を読み取ることができないことでも、家族は感情をきちんと読み取って、ごく普通に会話するように接しているのがとても印象に残っています。

私はこの時、「感情を表現できないことと、感情がないことは違う」ということを改めて感じました。障害のある子をもつ家族にとっては、当たり前のことかもしれません。しかし、家族ではない者にとっては、その子の日常や感情を理解することは難しいものです。

専門職の中には、家族に寄り添い家族の意向を尊重しながら、後見業務を行う人もいれば、形式的に後見業務を行う人もいます。それに対して不満を感じる人が多くいても、すぐに制度を変えることはできません。
そのため、現在の制度に不満を感じながらも諦めてしまうのではなく、現状を受け入れ、その中で少しでも良い方法を模索していくことが親なきあと問題においては大切な考え方だと思います。

 

任意後見人と成年後見人の違い

上記で、任意後見契約について説明しましたが、任意後見と成年後見の違いは何でしょうか。どちらの制度も、「本人の財産や生活を守り、支援する」という根本的なところは共通していますが、下記のような違いがあります。

任意後見 法定後見
対象者 ・判断能力がある
・判断能力が不十分でも、契約の締結能力がある
・判断能力が欠けている(後見)
・判断能力が著しく不十分(保佐)
・判断能力が不十分(補助)
手続き 公正証書で任意後見契約の締結及び登記 家庭裁判所へ後見開始の申立て
効力発生時期 判断能力の低下後、任意後見監督人が選任された時 後見開始の審判が確定した時
後見制度の利用停止 ・公証人の認証を受けた書面により、いつでも解除できる(任意後見監督人の選任前)
・正当な理由があり、かつ、家庭裁判所の許可がある場合のみ解除できる(任意後見監督人の選任後)
・申立後、審判確定前は、家庭裁判所の許可を得て取下げ。
・審判確定後は、原則利用の停止はできない。
メリット 後見人を本人が決めることができる 財産に関する包括的な代理権がある(後見のみ)
デメリット ・本人がした契約の取消権がない
・任意後見契約で定めた範囲内しか代理権がない
・任意後見監督人が必ず選任される
・後見人等は、家庭裁判所が選任する。
・後見人等が第三者の場合、毎月報酬が発生する。

任意後見の最大のメリットは、自分で後見人を決められるということです。

しかし、デメリットとして、必ず任意後見監督人が選任されるため、監督人への報酬が発生することや、契約の取消権がないため、訪問販売や騙されて契約してしまった場合に、契約を取り消すことができません。そのため、子どもの状況にあわせて、どちらの制度を利用するか検討する必要がありますが、「後見人を自分で決める」という点を重視する方には、任意後見契約をお勧めします。

まとめ

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

  • 子どもが成人したら、親権はなくなる。
  • 民法が改正され、2022年4月1日から、成人年齢が18歳に引き下げられる結果、障害の子である子の未成年である期間が短くなる。
  • 親権を利用し、未成年障害者の任意後見契約を結ぶことで、後見人を親が決めることができる。

今回の記事では、未成年障害者の親なきあと問題を解決する思考法と、具体的な解決策について説明しました。
実際に障害のある子をもつ親が、実体験に基づいて対策の必要性を話をしても、関心を示さない親もいるそうです。そのため、手続き上のことだけを専門家が話してもその想いや必要性を伝えることは難しいです。

これは、障害者の親なきあと問題だけではなく、高齢者の認知症対策などでも共通しています。どんなに必要性を訴えても、人は自分の身におきていることでないと実感が湧かず、行動に移すことができません。我々専門家の役目は、手続きをサポートすることだけでなく、行動するきっかけや情報を提供することだと強く感じています。

今回の記事が、親なきあと問題について行動を移すきっかけとなり、「いつか動く」から「今すぐ動く」に考え方が変わる方が一人でも増えることを願います。

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