財産が多い方は要注意!親族が後見人になるための2つの条件
成年後見を利用した方の中には、「成年後見はひどい制度だ!」と不満を持つ方が多くいます。
その理由の1つとして、突然知らない第三者が後見人となりお金の管理をされたり、親族が後見人となる場合でも、厳しい制限がかかるなど、今まで通り柔軟にお金を使うことができないことが挙げられます。
特に、まとまった金額を持っているご家族は注意が必要です。
今回の記事のポイントは、下記の3つです。
- 財産が多い方の場合、成年後見の申立てをする際は、家庭裁判所の運用をよく理解したうえで申立てをすることが必要。
- 一定の財産がある場合、後見制度支援信託又は後見制度支援預金を利用するか、それらを利用しない場合には、専門職の後見監督人を選任するかの選択を迫られる。
- 各制度にはメリット・デメリットがあるため、裁判所に言われたままに選択するのではなく、各制度の違いを理解したうえで自分で判断することが大切。
成年後見の申立をした後に、「こんなはずではなかった!」とならないために、財産の額に応じた家庭裁判所の運用を知っておくことは重要です。
そこで、今回の記事では、「親族を後見人にしたい」と考えている方が注意すべきポイントについて解説していきます。
親族が後見人に選ばれない場合とは?
後見人を選ぶのは、家庭裁判所です。
成年後見の申立てをする際に、後見人となって欲しい人(後見人候補者)を記載して申立てをすることはできますが、家庭裁判所が認めなければ後見人となることはできません。
では、どのような場合に親族が後見人となることはできないと判断されるのでしょうか。
主に次のような場合に、司法書士・弁護士の専門職後見人が選ばれる可能性が高くなります。
①親族間に争いがある場合
親族では適切に後見業務を行えないと判断され、専門職が後見人に選任されます。
②後見人候補者が高齢の場合
後見人候補者が高齢の場合には、後見人自身が認知症を発症するリスクや死亡するリスクも高まるため、継続的な財産管理に支障が出るおそれがあることから、選ばれるのが難しくなります。
③本人の財産が高額な場合
本人の財産が高額な場合は、たとえ親族が適切にお金の管理を行っており、親族関係が良好であったとしても親族が後見人に選ばれる可能性が低くなります。
そして、本人の財産が高額な方で親族を後見人候補者とする申立てをした場合、家庭裁判所から「後見制度支援信託、後見制度支援預金を利用すること」又は「親族後見人を監督するために、専門職の後見監督人を選任すること」の選択を迫られます。
後見制度支援信託とは?
後見制度支援信託は,後見制度による支援を受ける方(ご本人)の財産のうち,日常的な支払をするのに必要十分な金銭を預貯金等として後見人が管理し,通常使用しない金銭を信託銀行等に信託する仕組みのことです。成年後見と未成年後見において利用することができます。信託財産は,元本が保証され,預金保険制度の保護対象にもなります。 後見制度支援信託を利用すると,信託財産を払い戻したり,信託契約を解約したりするにはあらか じめ家庭裁判所が発行する指示書を必要とします。
なお、この制度は、保佐・補助及び任意後見では利用できません。
また、後見制度支援信託において信託することができる財産は金銭のみとされています。不動産や車などの動産は、信託することができません。
財産を信託する信託銀行等や信託財産の額などについては、原則として弁護士・司法書士等の専門職後見人が本人に代わって決めたうえ、家庭裁判所の指示を受けて,信託銀行等との間で信託契約を締結します。
後見制度支援信託を利用すると,通常,信託契約の締結に関与した専門職後見人に対する報酬と信託銀行等に対する報酬が必要となります。
専門職後見人に対する報酬は,家庭裁判所が,ご本人の資産状況等のいろいろな事情を考慮して決めますが、おおよそ10万から20万円とされています。
なお、専門職後見人は、信託の手続きが完了すると後見人を辞任するため、専門職後見人に支払う報酬は1回のみです。
信託銀行等に対する報酬については、各信託銀行によって異なります。
後見制度支援預金とは?
後見制度支援預金とは,後見事件について,本人の財産のうち,日常的な支払をするのに必要十分な金銭を預貯金等として後見人が管理し,通常使用しない金銭を信用金庫や信用組合で開設できる後見制度支援預金口座に預け入れるもので,同口座に係る取引(出金や口座解約など)をする場合には,あらかじめ家庭裁判所が発行する指示書を必要とする仕組みです。
この制度は、平成30年から運用が開始されたものです。
保佐・補助及び任意後見では利用できない点は、後見制度支援信託と同様です。
後見制度支援預金の場合、専門職後見人を選任するかどうかは裁判所が判断します。
そのため、必ずしも専門職後見人が選ばれるとは限らない点が、後見制度支援信託とは異なります。
後見制度支援預金では、手数料は発生せず、専門職後見人が選任されなければその報酬も発生しません。
また、後見制度支援信託の場合、最低受託額が定められている信託銀行がありますが、後見制度支援預金の場合は、最低預入金額の制限がありません。
本人の財産が多いと判断される基準は?
後見制度支援信託や後見制度支援預金は、本人の財産の適切な管理・利用のための方法の一つのため、すべての事件について利用されるわけではありません。
一般的に、預貯金や株式等の流動資産が一定額以上ある場合に、後見制度支援信託等の利用の検討を勧められるとされています。
そして、判断基準となる財産の額については、各家庭裁判所によって異なりますが、岐阜家庭裁判所の場合、概ね1,000万以上ある場合に勧められるとされています。
では、なぜ多額の財産を持っている方の場合、これらの制度の利用を勧められるのでしょうか。
それは、親族後見人による横領が多発していることが背景にあげられます。
テレビや新聞で報道されるのは、司法書士・弁護士の専門職による横領ですが、実は親族による横領も多くあります。
平成30年は、不正報告件数が250件、被害総額が11億3,000万円でした。そのうち、9割以上が親族後見人によるものです。
そのため、不正防止の観点から、一定の金額以上の財産がある場合は、後見制度支援信託・預金を利用するか、利用しない場合には後見監督人を付けるという運用がされています。
後見制度支援信託・預金又は後見監督人のどちらを選ぶべきか?
後見制度支援信託・後見制度支援預金の利用又は後見監督人を選任のどちらを選べばいいのでしょうか。
親族だけで後見業務を行いたい場合、後見制度支援信託又は後見制度支援預金を利用することで、その希望は叶います。
しかし、後見制度支援信託を利用した場合、一時的に専門職後見人に対する報酬が発生したり、本人のために急にお金が必要になった場合でも、裁判所の許可がなければ、お金を使うことができないというデメリットがあります。
また、後見制度支援預金を選択した場合は専門職への報酬は発生しませんが、裁判所の許可がなければ、お金を使うことができないという点は信託の場合と同様です。
一方で、後見監督人が選任された場合、監督人への報酬が月額1万から2万円かかります。
これは本人が亡くなるまでかかるため、後見制度支援信託を利用した場合よりも高額になるというデメリットがあります。
しかし、後見監督人が選任された場合、親族後見人は気軽に監督人に相談することができることや、本人のために急にお金が必要になった場合でも、監督人と相談したうえでお金を使うことができ迅速な対応ができるというメリットもあります。
このように、どちらの制度を選んだ場合でもメリット・デメリットはあります。
そのため大切なのは、後見の申し立てをする前にこれらの制度や家庭裁判所の運用をよく理解し、どちらを選択するかを自分で判断し、家庭裁判所に言われたままに選択をしないということです。
まとめ
- 財産が多い方の場合、成年後見の申立てをする際は、家庭裁判所の運用をよく理解したうえで申立てをすることが必要。
- 一定の財産がある場合、後見制度支援信託又は後見制度支援預金を利用するか、それらを利用しない場合には、専門職の後見監督人を選任するかの選択を迫られる。
- 各制度にはメリット・デメリットがあるため、裁判所に言われたままに選択するのではなく、各制度の違いを理解したうえで自分で判断することが大切。
今回の記事では、「親族を後見人にしたい」と考えている方が注意すべきポイントについて説明しました。
成年後見の申立をする際に、これらの制度や家庭裁判所の運用を知らずに申立てをし、申立てをしたことを後悔するというケースもあります。
成年後見の申立てを専門家に依頼せずに、ご家族ですることもできますが、専門家に依頼した場合、成年後見のメリット・デメリットを事前に理解したうえで、改めて成年後見の申立を行うかどうかを考えることができるというメリットもあります。
成年後見は申立てをしたら、原則本人が亡くなるまでやめることができません。
申立てたことを後悔しないよう、事前に専門家に相談することをお勧めします。