認知症で預金が凍結!?家族が預金の引出しをするために今からできる対策とは?

認知症の親の財産管理

総務省の調査によると、家計金融資産(日本の各世帯が保有する金融資産の合計額)の約7割を60歳以上の高齢者が保有しています。
そして、2030年には、認知症患者が保有する金融資産は215兆円に達し、日本の金融資産全体の1割になると見込まれています。

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

    • 認知症になると預金が凍結され、預金の解約手続きには成年後見人の選任が必要。
    • 親が認知症になる前に、銀行の「代理人カード」「代理人指名手続き」をすることで、専門家に頼らなくても親族だけで認知症対策をすることができる。
    • 認知症患者の預金の代理出金を認める考えが公表されたが、成年後見人ではない親族による代理出金が認められるのは、本人の医療費や介護施設入居費、生活費などの支払いに使用されることが確認できる「極めて限定的対応」であるため注意が必要。

今回の記事では、認知症の親の預金の管理方法について解説していきます。

認知症になった場合、いつ口座が凍結されるの?

預金凍結

親が認知症になった場合のリスクの1つに、「口座の凍結」があります。
認知症になった方の口座が、詐欺などの不正に使われたり、家族による使い込みによって、財産を失うことを防ぐためです。
ただし、親が認知症になった場合でも、すぐに口座が凍結されるわけではありません。
口座が凍結されるのは「親が認知症になり、かつ、その事実を銀行が知った時」です。

では、銀行はいつその事実を知るのでしょうか。

キャッシュカードを使って、子供が親の代わりにお金を引出している間は、銀行側が親が認知症になっていることを把握することはできないので、口座が凍結されるということはありません。
しかし、キャッシュカードでお金を引き出す場合は、1日あたりの限度額が決まっているため、まとまったお金を1度に引出すことはできません。
また、親がキャッシュカードを紛失している場合や、暗証番号を忘れてしまった場合にも、キャッシュカードを使ってお金を引き出すことができません。

このような場合、銀行の窓口でお金を引き出すことになりますが、窓口でお金を引き出す際には、必ず預金の名義人本人が手続きをする必要があります。
そこで、「親は認知症で銀行に行くことができない」と伝えると、銀行が口座を凍結するおそれが出てきます。
ただし、認知症の診断を受けてしまった場合でも、一律に口座が凍結されるということはなく、窓口でのやりとりで預金の名義人本人の意思確認がとれるかどうかが重視されているようです。
もし、銀行が預金の名義人単独では取引することができないと判断すると、預金は凍結され、成年後見人を選任しなければ、預金を引き出すことはできなくなります。

 

認知症になる前にできる生前対策は?

銀行生前対策

高齢の親の預金は、生活や介護、医療費の支払いに関わる重要なものです。
介護施設への入所などで、突然まとまったお金が必要となる場合があるかもしれません。
そのような場合に備えて「定期預金があるから」と安心していても認知症になると定期預金の解約をすることもできなくなります。
そのため、高齢の親が認知症になった場合に備えて生前対策を取ることが大切です。

高齢の親の認知症対策としては、家族信託と任意後見契約があります。

家族信託は、本人が元気なうちから認知症の発症後まで対応することができ、任意後見契約は、本人の判断能力が低下した後から対応することができる制度です。
しかし、これらの手続きには専門的な知識が必要となるため、家族だけで行うことは難しく、専門家に依頼する場合には報酬が発生するため、なかなか対策に踏み出せない方も多くいるのではないでしょうか。

そこで、意外と知られていない、家族だけでコストをかけずに行うことができる対策として「銀行の代理人手続き」があります。

この手続は、各金融機関によって名称は異なりますが、「代理人カード」「代理人指名手続」と呼ばれ、預金の名義人本人と本人以外の家族の2人が、預金を引き出すことができるものです。

「高齢の親や足腰が悪い方が、自分のキャッシュカードを子供に預け、代わりにお金を引き出してもらう」ということは、家族の中ではよくあることかもしれません。
しかし、高齢の親が暗証番号を忘れてしまったり、キャッシュカードを紛失した場合、子供が代わりにお金を引き出すことはできません。
そこで、代理人カードを作ることによって、親(預金の名義人)以外の家族もキャッシュカードを持つことができるため、これらのリスクを防ぐことができます。
代理人カードは誰でも作れるわけではなく、原則的には「本人と生計をともにする親族」や「同居の親族」と定められています。

岐阜県内の各銀行の多くは、「本人と生計をともにする親族」が発行の条件とされています。

ちなみに、「生計をともにする」とは、日常の生活の資を共にすることをいいます。
会社員、公務員などが勤務の都合により家族と別居している又は親族が修学、療養などのために別居している場合でも、①生活費、学資金又は療養費などを常に送金しているときや、②日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には他の親族のもとで起居を共にしているときは、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。

つまり、日常の生活費の出どころ(お財布)が一緒の親族であれば、別居であっても「生計をともにする」に該当します。

これに対し「代理人指名手続き」は、預金の名義人本人があらかじめ代理人(2親等以内の親族など)を指名する手続きで、代理人であれば、本人に代わってお金の引き出しができるものです。
ただし、代理人指名手続きは「窓口での引出し」に限定されるため、その点には注意が必要です。

また、三菱UFJ信託銀行が販売している商品に「代理出金機能付き信託」があります。
あらかじめ家族などの代理人を指定しておけば、本人が認知症や入院などでお金の管理が難しくなったときに、代理人が代わりにお金を引き出すことができるサービスです。
なお、代理人は、契約者の3親等以内の親族、弁護士、司法書士から1名を指定することができます。
お金を使うと、スマホアプリで家族に金額や内容が通知される「みまもり機能」や、スマホアプリで払出しの手続きができるという特徴があります。
ただし、代理人カードや代理人指名手続きとは異なり、信託報酬(手数料)がかかるので注意が必要です。

 

認知症患者の預金の代理出金とは?

代理出金

親が認知症になった後の対応策は、成年後見制度の利用しかありませんでした。
しかし、成年後見制度の利用率は低く、本人の医療費や施設の入所費用などの支払いで預金の引き出しが必要な場合でも、親族がお金を引き出せない問題がありました。

そこで、認知症という社会課題に対応すべく、2021年2月18日に全国銀行協会は、認知症になった方の預金を引き出す際に、法的な代理権がない親族らの引き出しも認める「考え方」をまとめました。
顧客の財産保護の観点から、成年後見制度の利用を促すのが基本とした一方で、制度を利用できないなどの場合には「極めて限定的な対応」として、法的な代理権のない親族(成年後見人ではない親族)による預金の引出しを認めるとしています。
ただし、法的な代理権のない親族による預金の引出しは、診断書や担当医の見解から本人の判断能力が失われていると判断され、かつ本人の医療費や介護施設入居費、生活費などの支払いに使用されることが確認できる場合のみとされているので、その点には注意が必要です。

 

口座凍結以外の認知症のデメリットとは?

デメリット

親が認知症になった場合のデメリットは、口座の凍結だけではありません。
「認知症の方が不動産を売る場合」「認知症の方が遺産分割協議をする場合」「認知症の方が所有する不動産に抵当権を付ける場合」
これら全ての場合で、成年後見人を付けなければ手続きを行うことはできません。

認知症対策や生前対策は、預金や不動産がたくさんある資産家にとって必要なものという考えを持っている方がいます。
しかし、実際に親の認知症の問題で相談に来る方は、目ぼしい資産が不動産(自宅)しかない方も多くいます。

預金が少ない方は、空家になった自宅を売らなければ、介護施設の入所費用にあてるお金がありません。
また、祖父母が所有している土地に孫が家を建てるケースがとても増えていますが、生前贈与で孫に不動産の名義を移す際には、不動産の所有者である祖父母の判断能力が必要となります。
孫が家を建てる時に銀行から借入をする場合、祖父母が所有する土地は担保に取られるため、その手続の際にも判断能力が必要とされます。
これらの問題には、やはり従来通り成年後見制度でしか対応できません。

認知症の問題は、預金だけでなく不動産や株、相続手続きなど幅広くあります。
認知症患者の預金の代理出金に関しても「極めて限定的な対応」としているように、認知症への対応の基本は成年後見です。

成年後見を避けたければ、生前の対策が必要です。
そして、認知症対策は「認知症になってしまった後では何もできない」ということをよく理解しておかなければなりません。

まとめ

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

    • 認知症になると預金が凍結され、預金の解約手続きには成年後見人の選任が必要。
    • 親が認知症になる前に、銀行の「代理人カード」「代理人指名手続き」をすることで、専門家に頼らなくても親族だけで認知症対策をすることができる。
    • 認知症患者の預金の代理出金を認める考えが公表されたが、成年後見人ではない親族による代理出金が認められるのは、本人の医療費や介護施設入居費、生活費などの支払いに使用されることが確認できる「極めて限定的対応」であるため注意が必要。

今回の記事では、認知症の親の預金の管理方法について説明していきました。

人生100年時代となり、今後は認知症の問題がより身近なものとなります。
認知症対策として家族信託を利用する方が増えたり、銀行が認知症に対する方針を転換したり、信託銀行が認知症のサポートに特化した商品を販売するなど、今後も成年後見に頼らない新たな対策方法が出てくる可能性があります。
しかし、今後どのような新しい制度ができたとしても、それらは基本的に認知症になる前の元気なときしか利用できません。
そして、どんなに良い制度があったとしても、その存在を知らなければ利用することもできません。

情報が溢れている現代では、「自分に関係する・興味がある」と感じる情報だけが無意識に取捨選択されています。
超高齢化社会となった今、認知症対策、相続対策、親なきあと対策を「他人事」と思わず、新たな情報を収集することが大切です。

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