【司法書士監修】高齢の親の実家を売る時に注意すべき3つのポイント

「高齢の親が施設に入所し、空き家になったら実家を売りたい」と考えている方も多いのではないでしょうか。一般的に、そのように考えているご家族が、実家の売却に向けて動き出すのは、親が施設に入所した後です。
しかし、実際に動き出してみると、「こんなに大変だと思わなかった」というお話をよく聞きます。

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

  • 実家を売るときには、名義人(親)の本人確認が必要。
  • 名義人(親)に成年後見人が選任されている場合、家庭裁判所の「居住用不動産の売却許可」が必要。
  • 実家の権利書がない(紛失した)場合、司法書士が名義人(親)に面談をして「本人確認情報」を作成するため、実際に会うことができないと売買ができない。

 今回の記事では、実家の売却手続きの流れと注意すべきポイントを解説していきます。

不動産売買の流れ

将来、不動産を売りたいと考えている方でも、不動産の売却にはどのような手続きが必要となるかを知らない方も多いのではないでしょうか。まずは、不動産売却の流れ理解しておくことが大切です。

「媒介契約」の締結

不動産を売りたいと考えた場合、自分で買い手を見つけることは難しいため、不動産会社に仲介を依頼することが一般的です。
そこで、不動産会社に仲介を依頼する場合、不動産会社との間で「媒介契約」を結びます。媒介契約とは、仲介の依頼を受けた不動産会社が、依頼者にとって不利な売買契約を結ばないようにするため、どのような条件で売却をし、成約した際の報酬をどのようにするかなどの内容を定めた契約のことです。

売買契約の締結

その後、不動産会社が不動産を売り出し、購入希望者が現れたら、買主との間で売買契約を結びます。

決済日の確定

売買契約を結んだ後は、実際に不動産を引き渡す日付けを決めます。司法書士や不動産業者は、売買代金の支払いをし、不動産の引き渡しを行う日のことを「決済日」と呼びます。
売主としては「売買代金を受け取る前に不動産を引き渡したくない」、買主としては「不動産の引き渡しを受ける前に売買代金を支払いたくない」と考えるのが通常です。そのため、両者の手続きは、決済日に同時に行われます。

不動産登記申請

買主が売買代金を支払う条件は、確実に不動産の名義が取得できることです。では、誰が不動産の名義変更に必要な書類の確認作業を行うのでしょうか。
ここで登場するのが、司法書士です。

不動産の名義変更をするには、「法務局」という所に申請書を提出することが必要です。登記申請を行う際には、様々な書類が必要となりますが、登記の内容によって必要な書類が異なります。また、専門的な法律知識が必要となるため、買主と売主が双方ともに不利益を被らないよう、国家資格を持った司法書士が登記の手続きを代理で行います。
一般的には、決済日の当日に、売主買主双方の本人確認及び意思確認をし、登記手続きに必要な書類を受領します。して、書類の確認ができたら、買主に売買代金の支払いをしてもらいます。その後、売主が売買代金の受け取りを確認できたら、その日のうちに、司法書士が登記の申請を行います。

 

司法書士が行う意思確認とは?

決済日に、売主買主の「本人確認」と「意思確認」を行うとお伝えしました。
ここでは、売主の場合で説明しますが、本人確認とは文字通り、不動産の名義人本人であるかどうかの確認です。第三者が売主になりすまして不動産を売却することはできないため、本人確認が必要となります。

また、本人確認と同時に意思確認も必要とされますが、意思確認をする際に重要となるポイントがあります。それは、「売主に判断能力があるかどうか」です。

売買という法律行為を行う場合には、判断能力(意思能力)が求められます。売主に判断能力がなく、不動産を売ることがどのような意味をもつのかが理解できない場合、不動産を売ることはできません。そのため、司法書士が「売主には判断能力がない」と判断した場合には、売買手続きはストップします。

もし、司法書士が売主に判断能力がないのに、売買手続きを許可したらどうなるのでしょうか。
判断能力がない者がした法律行為は、無効とされているため、売買契約は無効となります。そして、無効と判断された場合、所有権移転登記は抹消され、売主は売買代金を返金しなければなりません。そうなれば当然、不動産を購入した買主は損害を受けるため、損害賠償請求をされることになるでしょう。そして、このような場合、損害賠償請求の対象は不動産の売買手続きを最終的に許可した「司法書士」となることがあります。
不動産の取引ともなれば、何千万というお金が動くこともあるため、我々司法書士は、常に損害賠償請求がされるリスクを負いながら業務を行っています。司法書士が不動産取引の最終的な決定を下す事に対し、批判的な意見を言う方もいますが、我々の立場とすれば、取引に慎重になるのは当然のことです。

 

誰が判断能力の有無を決めるの?

最終的には司法書士が、不動産売買を行えるかどうかの判断をしますが、それは誰がみても明らかに判断能力がないと思われる場合です。しかし実際には、判断能力があるかどうかが明確ではない、悩ましいケースが多いのが実情です。そのような場合、我々司法書士は、認知症などの専門家ではないため、司法書士の判断のみで最終的な決定を下すことはできません。

そこで、司法書士が判断に迷うケースでは、認知症などの専門家である医師に最終的な判断を仰ぎ、出された診断書の内容に従って、売買手続きを行うかどうかの判断をすることになります。

医師に判断能力がないと診断された場合、成年後見の申し立てをしなければ、不動産売買を行うことはできないため、判断能力の有無が曖昧なケースでは、診断書はとても重要です。診断書を書いてもらう場合、病院の所定の書式で書かれる場合や、こちらが診断書の例を提示する場合がありますが、司法書士から診断書を提示する場合、成年後見の申立で使われる書式が提示される場合があります。
そして、成年後見の申立で使われる書式には、次のようなチェック欄があります。

上記の上から1番目以外にチェックが付けられた場合、司法書士としては、現在の状態では不動産の売買ができず、成年後見の申立が必要と判断せざるを得ません。
例えば、上記の2番目にチェックが付けられた場合、後見の類型の中でも一番程度が軽い「補助相当」と判断されます。しかし、補助相当の方でも、契約締結能力はあると診断される場合もあります。
不動産売買の際に必要とされることは、あくまで売買契約を結ぶ能力があるかどうかです。しかし、成年後見の申立で使われる書式を使用すると、さらに踏み込んだ判断がされません。そのため、判断能力の有無が曖昧なケースでは、売買ができなくなる恐れもあるため、成年後見の申立で使われる書式を使用することはあまりお勧めできません。

 

成年後見人が選任された場合の売却方法

医師により判断能力がないと診断された場合、成年後見人を選任しなければ不動産を売却することはできません。そして、不動産の売主に成年後見人が選任されている場合とされていない場合では、不動産の売買手続きに大きな違いがあります。

それは、成年後見人が選任されている方が「居住用の不動産」を売却する場合、「家庭裁判所の許可が必要」という点です。もし、成年後見人が、裁判所の許可を得ないで売却を行うと、その行為は「無効」となります。

ここで注意が必要なのが、「居住用不動産」とは、今現在その家に住んでいる場合だけでなく、「現在は居住しているわけではないが過去に生活の本拠となっていた建物とその敷地も含まれる」ということです。
つまり、「親が施設に入所したので、空き家になった実家を売ろう」とした場合、自宅は居住用不動産に該当するということです。

そして、居住用不動産の売却許可は「売買する必要があるのか?」「売買代金は適正か?」など、売却する相当の理由がなければ許可されることはありません。そのため「親が施設に入ったら、空き家となった自宅を売ろう」と安易に考えている方は、簡単には売ることができない場合があるということを覚えておかなければなりません。

 

不動産の権利書がない場合の売却方法とは?

不動産を売却する際に登記で必要な書類として、売却する不動産の「権利書」があります。もし、権利書を紛失している場合はどうなるのでしょうか。権利書を紛失した場合、いかなる理由であっても、権利書が再発行されることはありません。そのため、権利書がない場合は、下記のいずれかの手続きが必要となります。

司法書士による本人確認情報の作成

司法書士が不動産の名義人と面談し、司法書士自らの権限と責任で、不動産の名義人(売主等)が真正な所有者であることを確認し、それを証明する書類を作成することで、権利書に代えるものです。本人確認情報を作成する場合、司法書士は通常の手続きに加えて別途手続きが必要となるため、当然その報酬が発生します。報酬は地域などにより異なりますが、3万から10万とされています。

事前通知

権利書が提出されずに登記の申請があった場合に、登記官が不動産の名義人(売主等)に対し、書面で「申請があった旨及び当該申請の内容が真実であると考えるときは、法務省令で定める一定期間内にその旨の申し出をすべき旨」を通知する制度のことです。一定の期間(原則2週間)以内に申し出がされない場合、その登記申請は却下されます。手続きに際し、費用はかかりません。

費用の面から考えた場合、事前通知を使いたいと思うのが通常です。しかし、実際の手続きでは事前通知はほぼ使われず、司法書士による本人確認情報が作成されます。なぜなら、事前通知を利用した場合、登記名義人が一定期間内に申出をすることが必要とされ、登記名義人の行動ひとつに登記手続きが完了するかどうかが左右されるからです。そのため、事前通知を利用した場合、確実に登記手続きが行われることが保証できないため、特に売買手続きの場面では、必ず司法書士による本人確認情報によって取引を行います。

ここで注意が必要なのが、本人確認情報を作成するにあたり、必ず不動産の名義人本人に「面談する」必要があるということです。この「面談」には、テレビ電話は含まれていません。そのため、遠方に住んでいる方であれば、司法書士が名義人の所に出向くか、名義人が司法書士の所に来所し、実際に会う必要があります。

そして、この「面談」が現在問題となっています。それは、「コロナ」の影響により、家族であっても面会が認められない病院や施設があることです。少しずつ面会が緩和されている地域もあるようですが、またコロナが流行すれば、規制が厳しくなることが予想されます。このように、親が施設に入所し面会が制限されている場合、たとえ高齢の親に判断能力があっても、権利書がなければ不動産を売ることができません。

まとめ

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

  • 実家を売るときには、名義人(親)の本人確認が必要。
  • 名義人(親)に成年後見人が選任されている場合、家庭裁判所の「居住用不動産の売却許可」が必要。
  • 実家の権利書がない(紛失した)場合、司法書士が名義人(親)に面談をして「本人確認情報」を作成するため、実際に会うことができないと売買ができない。

今回の記事では、実家の売却手続きの流れと注意すべきポイントをについて説明しました。
これまでも、高齢者の不動産売買には注意すべき点がありましたが、現在では、コロナにより予想していなかった新たな問題が発生しています。また、面会の問題だけでなく、コロナの影響で外出や人と会うことが制限されたことにより、認知症が進行しているケースもあります。超高齢化社会となり、認知症の発症率も高まっている現代の日本においては、実家の売却を安易に考えず、早い段階から準備を進めておくことが必要です。

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