【認知症対策】任意後見を検討する前に知っておくべき、契約後の意外な落とし穴

親なきあと対策や認知症対策を考えた時、「成年後見制度は利用したくない」と思う方も多いのではないでしょうか。
成年後見制度に対して悪いイメージを持つ理由の1つに、「誰が後見人に選ばれるか分からない」ということがあります。

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

  • 任意後見契約では、自分で後見人となる人を選ぶことができる。
  • 任意後見契約を結んでも、調査官次第で、必ずしも自分が選んだ人が選ばれるとは限らないことを認識したうえで、成年後見に移行しないよう対策を取ることが必要。
  • 法律の専門家であっても後見制度に詳しくない人もいるので、資格者というだけで安心せず、依頼をする専門家を見極めることが必要。

自分で後見人となる人を選ぶことができるものとして「任意後見契約」があります。今回の記事では、任意後見契約を結ぶ際に注意すべきポイントを解説していきます。

任意後見契約とは?

任意後見契約契約とは、将来認知症などで自分の判断能力が低下した場合に、自分が信頼できる人に自分の後見人になってもらうことをお願いする契約です。
日本は超高齢化社会となり、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症を発症すると言われています。認知症になると銀行口座が凍結されたり、売買契約などの法律行為を行えないなどの問題が発生します。

そこで、あらかじめ自分が信頼できる人(任意後見人)に財産管理等をお願いすることで、認知症になった後も安心して老後を過ごすことができます。
任意後見人は、あらかじめ任意後見契約で定めた内容に従って、本人の「財産の管理」や介護サービス契約の締結、老人ホームへ入居する場合の入居契約を締結などの「介護や生活面の手続き」をすることができます。

 

なぜ任意後見契約が注目されるの?

後見制度には、「成年後見」と「任意後見」があります。どちらの制度も、「本人の財産や生活を守り、支援する」という根本的なところは共通していますが、大きくことなる点もあります。

成年後見と任意後見の違いは、下記の記事で詳しく解説してますので、確認してみてください。

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成年後見と任意後見の大きな違いの1つに、「誰が後見人となる人を選ぶのか」という点があります。
自分の財産など重要なことを任せるのだから、当然自分で決められると思ったかもしれません。しかし、成年後見では、後見人を選ぶのは「家庭裁判所」です。
そして現在、この成年後見制度を利用している人の約7割が、専門職後見人と呼ばれる司法書士や弁護士が選ばれています。

親族が後見人に選ばれた場合、報酬が発生することは基本的にありませんが、第三者が選ばれた場合、その人への報酬が発生します。また、後見制度は一度始まったら、本人の判断能力が回復するか本人が亡くなるまで続きます。そのため、後見制度を利用した期間が長ければ長いほど、後見人に支払う報酬も高額になり、本人の財産は減少していきます。

これに対し、任意後見は、「自分で」後見人を選ぶことができます。この点が、任意後見契約が注目される最大の理由です。

 

任意後見契約の手続きの流れ

任意後見契約の締結

任意後見契約は、判断能力が衰える「前」に、本人(委任者)と後見人となってくれる人(受任者)の間で契約を結ばなければなりません。契約を結ぶだけの能力がないと診断されるほど判断能力が衰えてしまうと、「任意後見契約を結ぶことはできない」ということに注意が必要です。

任意後見契約公正証書の作成

任意後見契約は必ず公正証書でしなければなりません。そのため、任意後見契約は公証役場で、公証人による意思確認のもと作成されます。

任意後見契約の登記

任意後見契約が結ばれると、公証人の嘱託により法務局に登記がされます。これにより、任意後見監督人の選任前は、本人・任意後見人・代理権の範囲が登記され、任意後見監督人の選任後は、本人・任意後見人・任意後見監督人・代理権の範囲が登記されます。

任意後見監督人選任の申立て

任意後見契約は、契約を結んだだけでは効力は発生しません。任意後見契約は、本人の判断能力が衰えた場合に備えてあらかじめ結ばれるものであるため、本人の能力が低下した「後」に、任意後見人となる人や親族等が本人の同意を得て、家庭裁判所に対し「任意後見監督人選任の申立て」をします。
そして、家庭裁判所が任意後見人を監督する「任意後見監督人」を選任すると、その時から、任意後見人は契約に定められた仕事を開始します。

 

任意後見契約を結ぶ際に注意すべきポイント

「成年後見制度は、誰が後見人に選ばれるか分からないので、自分で後見人を決めたい人は任意後見契約を結びましょう」とよく言われます。しかし、たとえ任意後見契約を結んだ場合でも、「必ずしも自分が選んだ人が後見人に選ばれるわけではない」という点に注意しなければなりません。そして、家庭裁判所が「本人の利益のため特に必要がある」と認めた場合には、法定後見に移行することもあるのです。

後見制度は、本人の財産を保護することを目的とするため、例えば本人の財産を私的に流用するような人であれば当然選ばれません。
では、どの段階で、任意後見受任者がふさわしい人かの判断がなされるのでしょうか。

それは、任意後見監督人選任にあたって家庭裁判所が本人に面談する際です。

任意後見監督人選任の審判にあたり、家庭裁判所は本人の陳述を聴取する必要があるとされています(家事手続法220条1項1号)。この陳述は、本人の意向や状態を適切に把握するために、調査官によって行われます。
そして、調査官による陳述の聴取は「調査官によって異なる」ということに注意しなければなりません。調査官も人間であるため、その人の主観が入ります。そのため、形式的な質問をして終わる人もいれば、初めから結ばれた任意後見契約を疑ってかかり、厳しく質問する人もいます。

ここで思い出してください。
任意後見契約は、本人の判断能力が低下した「後」に、任意後見の効力を発動させるための申立を行います。つまり、調査官が本人に面談する際には、本人の判断能力が衰えているということです。

本人の判断能力が低下した後と言っても、判断能力の程度は様々ですが、補助相当の状態で申し立てる人もいれば、後見相当の状態で申し立てをする人もいます。後見相当の状態で申し立てをした場合、本人が自分の意思をはっきりと伝えることはできません。たとえ補助・保佐相当であったとしても、面識がない調査官に何度も「本当にこの任意後見受任者で良いのですか?」と聞かれれば不安に感じてしまうかもしれません。

このように、任意後見契約を結んだから安心だと思っていると、申立をするタイミングや調査官次第では、任意後見受任者が選ばれない可能性があるということに注意しなければいけません。

また、このようなケースがありました。
80代の一人暮らしの女性が、地元の司法書士との間で任意後見契約を結びました。その司法書士を昔から知っていたため安心していましたが、その司法書士は任意後見契約を結んだ後は、一切連絡を取ることはありませんでした。そのことを不安に思った本人が他の専門家に相談し、結局、最初の任意後見契約を解除し、再度別の専門家と任意後見契約を結び直すということがありました。

物忘れなどが増えてきた場合に、本人自ら「判断能力が衰えてきた」と認識する方もいるでしょう。しかし、おそらくほとんどの場合が、家族などの周りの人が様子がおかしいことに気づくのではないでしょうか。同居している家族がいれば、すぐに異変に気づけるかもしれませんが、一人暮らしの場合はどうでしょう。定期的に会う人がいなければ、些細な変化に気づくことはできないと思います。

実際にこの女性も、訪問販売がよく訪ねていることを心配したご近所の方が、専門家に相談したことがきっかけでした。もし、ご近所の方が異変に気づいて行動をしていなければ、せっかく任意後見契約を結んでいてもこの女性を守ることはできませんでした。

本来であれば、任意後見受任者となった司法書士が見守りを続けるのが当然ですが、後見制度に詳しくない専門家が、単に手続き業務として任意後見を捉えていたために、このようなことが起きてしまったのだと思います。

まとめ

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

  • 任意後見契約では、自分で後見人となる人を選ぶことができる。
  • 任意後見契約を結んでも、調査官次第で、必ずしも自分が選んだ人が選ばれるとは限らないことを認識したうえで、成年後見に移行しないよう対策を取ることが必要。
  • 法律の専門家であっても後見制度に詳しくない人もいるので、資格者というだけで安心せず、依頼をする専門家を見極めることが必要。

今回の記事では、任意後見契約を結ぶ際に注意すべきポイントについて説明しました。

成年後見制度の認知度が高まってきたとともに、認知症対策として任意後見契約を結ぶ人の件数も年々増加しています。しかし、任意後見契約を結んだ方のうち、任意後見監督人の選任申立をして、実際に任意後見を発動した人の割合はわずか3%です。つまり、9割以上の人がただ契約を結んだだけの状態であるということです。

なかには、任意後見契約を開始する前に亡くなってしまった方もいるでしょう。しかし、全員がそのようなケースに当てはまるとは思えません。
任意後見契約を結んだ方の中には、万が一の場合に備えての「お守り」として契約を結ぶ方もいます。しかし、任意後見に詳しくない専門家が関与していたり、任意後見受任者が故意に任意後見を発動させず、正しい財産管理が行われない状況が起きていると、「安心した老後を過ごすため」という任意後見契約を結ぶに至った本来の目的が達せられず、老後のお守りにならない場合があることを忘れてはいけません。

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