司法書士監修!自筆証書遺言保管制度とは?メリットとデメリットを徹底解説

自筆証書遺言保管制度

平成29年度に法務省が調査した「我が国における自筆証書による遺言に係る遺言書の作成・保管等に関するニーズ調査・分析業務」によると、55歳以上で自筆証書遺言を作成したことのある人は3.7%公正証書遺言を作成したことのある人は3.1%となっています。
遺言書を書く方の割当は非常に少ないですが、民法が改正され、自筆証書遺言の方式が緩和されたことや、法務局での自筆証書遺言の預かりが開始したことにより、今後は自筆証書遺言を作成する方が増えることが予想されます。

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

  • 自筆証書遺言の保管制度を利用すると、家庭裁判所での「検認」手続きがが不要となる。
  • 保管申請の際に法務局がするチェックは形式的なもので、遺言の内容について相談に応じることやアドバイスはしてくれない。
  • 保管申請は、必ず遺言者本人が出頭しなければならず、使用する遺言書の様式(サイズや余白)も細かく指定されているので注意が必要。

今回の記事では、自筆証書遺言の作成を検討する際には、ぜひ知っておきたい「自筆証書遺言の保管制度」について解説していきます。

遺言の種類と違い

遺言

遺言と一口に言ってもいくつか種類があり、それぞれ要件が異なります。
遺言の種類には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つがあります。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の全文、日付及び氏名を自書して、これに印を押すことが要件とされています。
なお、自筆証書遺言の方式緩和があり、2019年1月13日からは相続財産の全部または一部の目録(財産目録)を添付する場合は、その目録についてはパソコンで作成したものでも良いことになりました。「財産目録」というものを別途作成しなくても、預貯金であれば通帳のコピー、不動産であれば登記事項証明書を添付することもできます。
紙とペンがあればすぐにでも作成することができ、何より無料で作成することができるのが特徴です。自筆証書遺言で相続手続きをするためには、原則家庭裁判所で「検認」とよばれる手続きをする必要があります。

公正証書遺言

公正証書遺言は、公証役場という役所で作成する遺言書です。証人2人の立ち会いのもと作成されることが要件とされています。証人は、誰でもなれるわけではなく、未成年者、推定相続人および受遺者(遺言で財産をもらう人)やこれらの配偶者及び直系血族(父母、子、孫など)、公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人はなることができません。
遺言を作成する際には、財産の額などに応じて公証人への手数料が発生しますが、検認と呼ばれる手続きが不要で、遺言の不備や紛失のリスクがないのが特徴です。

秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言書に書かれた内容を知られたくない場合に使われるものです。実際に秘密証書遺言が利用されることは、ほとんどありません。秘密証書遺言は、遺言者が自ら作成する必要がありますが、遺言者の自筆の署名と押印がなされていれば、遺言の内容は、パソコンや代筆で記載しても問題ありません。
遺言書の存在を証明するために、公証人1人と、証人2人の立ち会いが必要です。なお、作成した遺言書は、遺言者自身で保管します。

 

自筆証書遺言の保管制度とは?

自筆証書遺言保管制度

2020年7月10日より、法務局における自筆証書遺言の保管制度が開始されました。
文字通り、遺言者に代わって法務局が自筆証書の保管をしてくれるものです。なお、遺言書の原本を保管するほか、その画像情報等のデータも同時に保管されます。この制度は、高齢化の進展等の社会経済情勢の変化に鑑み,相続をめぐる紛争を防止するという観点から新たに設けられたものです。

自筆証書遺言は、相続人に知られることなく遺言者が1人で作成することができます。また、遺言書は遺言者自身で保管をしなければいけません。そのため、遺言が発見されなかったり、紛失や改ざんのリスクもありました。
さらに、自筆証書遺言には検認手続が必要ですが、検認手続には通常1ヶ月から2ヶ月かかります。その間は当然、相続の手続きはストップするため、すぐに預貯金を解約したくても解約できません。
また、家庭裁判所への検認手続きを相続人自らが行うことができない場合、司法書士・弁護士に依頼することもできますが、その場合は当然費用が発生します。そして、その費用を負担するのは遺言者ではなく相続人です。

自筆証書遺言は、「遺言者」から見れば無料で気軽に作成できるいいものですが、「財産を受け取る人(受遺者)」から見ればリスクや迅速性にかけるものと言えます。
そこで、これらのデメリットを補い、遺言者の最終意思の実現・相続手続の円滑化を目的として作られた制度です。

 

自筆証書遺言保管制度利用の流れと注意点

流れと注意点

自筆証書遺言の保管制度を利用する場合、その流れと注意点は次のようになります。

①自筆証書遺言の作成

 ※法務局は、自筆証書遺言の作成の相談には対応してくれません。

②保管の申請をする法務局を決める

 ※保管申請をする法務局は、全国の法務局のうち法務大臣の指定する法務局であり、かつ遺言者の
  住所地・遺言者の本籍地・遺言者が所有する不動産の所在地のいずれかです。(岐阜県内であれ
  ば全ての法務局が対象です)

③保管の申請書の作成

 ※申請書は、法務省のHPからダンロードすることができ、法務局の窓口にも備え付けられていま
  す。

④保管申請の予約

 ※法務局手続案内予約サービスの専用HPにおける予約又は法務局への電話・窓口での予約のいず
  れかの方法で行います。

⑤保管の申請をする

 ※遺言書、申請書、添付書類、本人確認書類、手数料(1通につき3,900円)を持参して、遺言者
  本人が法務局に出頭します。

⑥保管証を受け取る

 ※遺言者の氏名・出生年月日・遺言書が保管されている法務局の名称及び保管番号が記録された保
  管性が発行されます。なお、保管証を紛失しても再発行はされません。

 

自筆証書遺言の保管制度のメリット・デメリット

メリットデメリット

自筆証書遺言の保管制度には、次のようなメリット・デメリットがあります。

メリット

①遺言書の形式的なチェックが受けられる

 この制度を利用すると、法務局の職員が自筆証書遺言の方式について形式的な確認(全文、日付及
 び氏名の自署、押印の有無等)をしてくれるため、自筆証書遺言の形式的な要件を満たしていない
 ことによって、遺言書が無効となるリスクがなくなります。

②家庭裁判所における検認手続が不要

 自筆証書遺言には検認手続が必要ですが、この制度を利用した場合には、検認手続が不要となりま
 す。検認手続は時間がかかり、迅速性にかけましたが、検認が不要となったことにより、スピーデ
 ィーに相続手続きが行えるようになります。

③遺言書の未発見・紛失、改ざんのリスクが軽減される

 自筆証書遺言は、誰にも知られずに作成することもできるため、相続人に遺言書が発見されないこ
 とや、遺言書が改ざんされてしまうおそれがありました。しかし、法務局に自筆証書遺言を預ける
 ことで、公正証書遺言と同様に安全性が担保されます。

デメリット

①遺言書のチェックはあくまで形式的なもの

 自筆証書遺言保管の流れの部分でもお伝えしましたが、法務局は、自筆証書遺言の作成の相談やア
 ドバイスには応じてくれません。遺言書が形式的な要件を満たしていることはもちろん重要ですが
 遺言の内容が適切でなければ意味がありません。「法務局がチェックをしてくれる」という言葉だ
 けがひとり歩きして、安心感を覚えている方もいるかもしれまんせんが、現に、この制度を利用し
 た方の遺言書の中には、登記手続きで使用できないものもあったと法務局の職員の方がお話されて
 いました。

②保管の申請には本人が行かなければならない

 法務局の職員が(遺言書保管官)が、本人確認を行う必要があるため、必ず本人が出頭しなければ
 なりません。「保管申請書」の作成であれば、司法書士に依頼することもできますが、この場合で
 も本人が出頭しなければならないことに変わりありません。
 郵送による申請もできないため、高齢の方で法務局が遠方の場合や、施設や病院などから出られな
 い方の場合、この制度を利用することができません。

③自筆証書遺言の様式が細かい

 自筆証書遺言は、全文(財産目録を除く)が自署されえていれば、遺言書の用紙そのものに指定は
 ありませんでした。そのため、B4サイズや柄が入っていても無効とはなりませんでした。
 しかし、自筆証書遺言の保管制度を利用する場合には、次の様式を満たしている必要があります。
 なお、財産目録として通帳のコピーや不動産の登記事項証明書を付ける際にも、同様の指定があり
 ます。
 ・A4サイズ(A4縦書きの場合、上と右に5㎜、左に20㎜、下に10㎜の余白があること)
 ・原則無地(画像読み取りに支障が起きる懸念がある、地紋や背景画像があるものは不可とされる
  可能性あり)
 ・遺言書が複数枚の場合、各ページにページ番号を記載する一方、ホチキスで綴じあわせてはいけ
  ない。ページ番号は余白部分に記載してはならない。
 ・記載は片面のみ、両面は使用不可。
 ・財産目録は、記載のあるページ全てに署名・押印が必要。署名・押印は余白部分に記載してはな
  らない。

もし、自筆証書遺言を作成する際に保管制度を利用するつもりがない場合でも、後からこの制度を利用する場合に備えて、上記の様式で遺言書を作成することをオススメします。

 

まとめ

今回の記事のポイントは、下記の3つです。

  • 自筆証書遺言の保管制度を利用すると、家庭裁判所での「検認」手続きがが不要となる。
  • 保管申請の際に法務局がするチェックは形式的なもので、遺言の内容について相談に応じることやアドバイスはしてくれない。
  • 保管申請は、必ず遺言者本人が出頭しなければならず、使用する遺言書の様式(サイズや余白)も細かく指定されているので注意が必要。

今回の記事では、「自筆証書遺言の保管制度」について説明していきました。
法務省が行ったアンケート結果によれば、自筆証書遺言を作成した(作成したい)理由は「自分だけで手軽に作成(書き換え)することができるから」が最も高く、次いで「作成の費用があまりかからないから」「誰にも知られずに作成することができるから」となっています。

一方で、遺言の作成理由については「自分の考えるとおりに財産を分配したいため」 が最も多い85.8%となっています。
自分の望む相続があり、それを実現するために遺言書を作成することが本来の目的であるはずなのに、実際に遺言書を作成する際には、手軽さや費用で比較して自筆証書遺言という選択をしている方が非常に多いということです。

自筆証書遺言保管制度にはメリットもありますが、それと同時に遺言の執行(実現)に関わるデメリットもある制度です。
「自分の考える相続を実現する」という目的を果たすためには、遺言を作成する際は専門家に相談し、公正証書遺言で作成することをオススメします。

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